安全衛生ノート
〜脚立の安全対策(第5回)〜
平成26年9月
労働安全・衛生コンサルタント 土方 伸一
■脚立に起因する労働災害の分析(第5回)
今月からは脚立の上で作業する場合の安定性(不安定性)について解析していきます。
◇解析で使用する脚立、作業者の想定について
この解析では、通称6尺(収納時の長さ:1.8m)のはしご兼用脚立を想定します。
脚立の仕様(市販されている脚立の平均的な値)
天板の高さ:1.7m
全幅:0.62m 奥行:1.1m
天板:0.28m×0.18m
使用時の重心高さ:0.85m
重量(質量):7.0kg
作業者(平均的な作業者を想定)
身長:1.7m 体重:70kg
重心:0.95m(身長の56%)
◇解析その1 天板上の作業
天板上に立った状態での作業は、危険な作業とされています。なぜ危険なのでしょうか。
作業者を前後、左右に動かすために必要な力Fの値を計算します。(表を参照)
比較のために、床上で安定して作業できると思われる状態(安定状態)について計算します。両足を前後又は左右50cmに開いた場合を安定状態とします。
θ0は外力が加わらないときのθの値です。(ここでは初期角度とします。)
|
力の方向 |
tanθ0 |
θ0 (初期角度) |
力(F) |
力の大きさの比較 (基準状態を100) |
天板上 |
左右 |
0.15 |
8.4° |
101 N |
56 |
前後 |
0.09 |
5.4° |
65 N |
36 |
|
安定状態 |
左右・前後 |
0.25 |
15° |
181 N |
100 |
天板上では、F>101 N(ニュートン)の力で作業者を動かすことができます。これは10kgの米袋を持ちあげる力とほぼ等しい力で、安定状態の56%の力です。
動き始めると、θは小さくなり、Fも同時に小さくなって、θ<0となったとき、作業者は脚立から墜落します。
作業者が身体を動かして、重心が移動したときはθ0は小さくなり安定性は更に低下します。重心移動を5cmと仮定すると、左右では101 N→65 N、前後では65 N→29 Nまで低下します。この程度の重心移動は作業中に容易に起こりうると推定されます。
結論
天板上ではA4コピー用紙(210×297mm)より狭い場所で、極めて不安定な作業を強いられます。はしご兼用脚立では天板上に立った状態での作業は決して行ってはいけない作業です。
次回は、天板以外での作業を想定して安定性(不安定性)を解析します。